大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成8年(ワ)20554号 判決 1998年1月30日

原告

古尾谷不二

右訴訟代理人弁護士

西田勇人

原告補助参加人

海老澤清貴

右訴訟代理人弁護士

吉岡讓治

原告補助参加人

三井不動産販売株式会社

右代表者代表取締役

横山宏明

右訴訟代理人弁護士

井手慶祐

被告

御殿山第二コーポラス自治会

右代表者

山口健三

右訴訟代理人弁護士

椎名茂

主文

一  原告と被告との間において、原告が別紙駐車場目録記載の駐車場の専用使用権を有することを確認する。

二  原告と被告との間において、原告が被告に対し、別紙駐車場目録記載の駐車場につき、平成八年一〇月一日以降、月額一万円を超える維持管理費支払義務を負わないことを確認する。

三  訴訟費用は、被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

主文同旨

第二  事案の概要

本件は、別紙物件目録記載一の建物(御殿山第二コーポラス、以下「本件マンション」という。)のうち、同目録記載二の部分(以下「本件建物」という。)を、別紙駐車場目録記載の駐車場(以下「本件駐車場」という。)の専用使用権(以下「本件専用使用権」という。)と共に購入した原告が、被告に対し、同使用権の確認及び同駐車場について月額一万円を超える維持管理費の支払義務の不存在確認を求めた事案である。

一  被告は、本件マンション及びその敷地の共有持分を有する区分所有者全員により構成される本件マンションの管理組合である(争いがない。)。

二1  ニチモプレハブ株式会社(以下「ニチモプレハブ」という。)は、昭和四五年ころ、本件マンションを建設して分譲販売するに際し、その敷地の一部に本件駐車場を含む三区画の駐車場を設け、本件マンションの購入者に対して譲渡した。

2  後藤宏雄(以下「後藤」という。)は、昭和四五年九月ころ、ニチモプレハブから本件建物及びその敷地権を購入したが、その際、ニチモプレハブとの間で本件駐車場につき、昭和四五年九月一四日付「専用使用(パーキングスペース)契約」(以下「本件設定契約」という。)を締結して本件専用使用権を取得し、ニチモプレハブに対し、その権利金として四〇万円を支払った。

3  後藤は、昭和五九年七月一八日、補助参加人海老澤清貴(以下「海老澤」という。)に対し、本件建物及びその敷地権を売却すると共に、同人に対し本件専用使用権を譲渡した。

4  海老澤は、被告に対し、本件駐車場の維持管理費として月額一〇〇円を支払っていたが、被告の要請に応じて平成五年二月分から月額一万円を支払うようになった。

(1ないし4につき争いがない。)

三  原告は、平成七年九月一六日、補助参加人三井不動産販売株式会社の仲介により、海老澤から本件建物及びその敷地を購入した。右売買契約においては、買主である原告が本件専用使用権を取得し、その代金は売買代金三七〇〇万円に含まれる旨の特約がされていた。

(甲六)

四  原告は、平成八年四月八日、被告から、海老澤が本件駐車場を売却した場合には同駐車場は被告に返還され、原告がこれを使用することはできないので、同月末日までに改めて被告と使用契約を締結されたい旨、それまでの使用料を暫定的に一か月四万五〇〇〇円とする旨通知された。原告は、同年九月分まで、月額一万円の支払はしたが、被告との間で新たな使用契約は締結しなかった(争いがない。)。

五  後藤とニチモプレハブとの間で締結された本件設定契約は、本件駐車場の専用使用権について定めるものであるが、「専用使用権者は取得した専用使用権を区分所有者以外に譲渡または使用させてはならない。」(六条)、「専用使用権は区分所有権譲渡のとき消滅する。」(七条)、「別冊不動産売買契約および『ニチモコーポラス共同管理規約』の定めは本契約に優先する。」(九条)と規定している(甲三、以下これらの規定を「本件設定契約六条」等という。)。

ニチモコーポラス共同管理規約(以下「本件規約」という。)は、ニチモプレハブが定めた本件マンションの規約であり、本件マンションの分譲の際に購入者と個別に取り交わしたものであるところ、同規約においては、「この規約において『専用使用権』とは使用権者のみが専用に使用できる権利をいう。」(三条(6))、「区分所有者からニチモコーポラスの区分所有権の譲渡を受けた者またはその相続人、もしくは財産管理人または他の如何なる理由の居住者であってもこの規約に定める権利義務の一切を継承する。」(六条)、「区分所有者全員は不動産売買契約書に基づき庭、物置およびパーキングスペースについて専用使用権者の専用を認める。ただし、定められた目的以外に使用してはならない。使用権者でない区分所有者は無断でこれを使用してはならない。」(八条)と定められている(甲一、弁論の全趣旨。以下これらの規定を「本件規約二条」等という。)。

六  本件マンションの他の二つの駐車場の専用使用権(以下、便宜「一号駐車場(の専用使用権)」「二号駐車場(の専用使用権)」という。)については、これまで次のような経緯を経て現在に至っている(乙五、六、丙三ないし八、弁論の全趣旨)。

1  本件マンション二戸と一号駐車場の専用使用権を有していた藤江は、昭和五三年ころ、そのうちの一戸を河原に譲渡し、更に平成四年ころ、残りの一戸を一号駐車場の専用使用権と共に三坂に譲渡しようとしたところ、三坂からは駐車場は不要であると言われたため、河原に購入を打診したが、同人も不要であるということだったので、被告総会(以下「総会」という。)において、河原を通じて、駐車場を使用しないので誰かに買ってもらえないだろうかとの申し出をした。これに対し、当時の被告会長は、駐車場の所有権者は本件マンションの所有者全員なので、一号駐車場の専用使用権は、藤江が本件マンションの所有権を失ったときに被告に移るという意見を表明し、藤江と交渉の上これを被告に返還してもらった。同年八月の総会において、一号駐車場については、公募により居住者に貸すこととされ、使用料が管理料込で月額三万円と定められ、以後、抽選の上、被告から本件マンションの居住者に賃貸されている。

2  二号駐車場の専用使用権の現在の権利者である杉浦は、やはり前主から区分所有権と共にこれを譲り受けたものであるところ、昭和六〇年ころ、区分所有権を保有したまま転居するに際し、住居を賃貸すると共に二号駐車場を別の区分所有者に賃貸したが、平成五年ころ、二号駐車場の賃借人が転居して借り手がいなくなったので、総会において、借主を探してもらいたい旨申し出た。前記藤江と異なり、杉浦はなお区分所有権を有していたため、被告は、右申出に応じて希望者の抽選をし、借主が決定された。そして、同年の総会において、その賃料を一号駐車場と同額として被告が徴収し、管理料五〇〇〇円を差し引いた上、残額を杉浦に支払うこととされた。

3  平成六年ころから、右のような駐車場の扱いについて居住者から疑義が出始め、総会において検討されたが最終的な結論には至らず、将来被告が買い上げていくという方向が示されたにとどまった。

七  争点

1  本件専用使用権が原告に帰属するか。

(原告の主張)

原告は、海老澤から本件建物の所有権と共に本件専用使用権を譲り受けたものである。本件専用使用権は、物権的用益権に類似する使用権という性格を有するものであり、区分所有権の移転に随伴するというべきである。本件設定契約及び本件規約によれば、本件マンションの区分所有権を喪失したものが本件専用使用権のみを留保することはできないが、区分所有権の譲渡に伴い、これに併せて本件専用使用権を譲渡することには何ら問題がない。被告もこれまでの本件専用使用権の移転について何ら異議をとどめず、これを承認しているというべきである。本件マンションにおいては、区分所有者の共有部分であるはずのバルコニー、専用バルコニー、専用庭についても専用使用権が設定されて分譲されているのであるから、駐車場についてのみその譲渡を否定することはできない。

また、被告は、原告と同様の立場にある二号駐車場の専用使用権者杉浦について、同人が当該駐車場を本件マンションの別の居住者に賃貸し、使用料を徴収することを認めているのであるから、本件専用使用権のみを否定することは著しく不均衡な取扱いを容認することになる。

(被告の主張)

専用使用権は、共有部分に属する土地についての排他的利用権であるから、他の共有者の同意を得ることなく設定することはできない。本件専用使用権の設定は、ニチモプレハブがその対価を取得することを正当化するためにされたものである。

仮にその設定ができるとしても、本件専用使用権の設定時に四〇万円が対価として支払われており、これは債権的利用権の利用料の先払いという性質を有するところ、本件専用使用権は、その設定後二五年以上経過しているのであるから、既に右利用料は償還され、権利も消滅しているというべきである。

そうでないとしても、原告が主張する専用使用権は、本件駐車場の個別の利用権にすぎず、本件設定契約において、区分所有権譲渡のとき消滅する旨規定されているから、本件マンションの個別の区分所有権の移転に随伴しない。本件設定契約七条の規定をこのように解さないと、他の区分所有者は、専用使用権の制限を受ける共有部分について、自ら使用することができないまま永久に共有持分に応じた固定資産税を負担することになり不合理である。被告の平成四年二月一一日開催の総会においても、本件マンションの区分所有権が移転した際には、専用使用権が被告に帰属する旨確認されており、その総会には海老澤も出席して何ら異議をとどめなかった。被告の平成八年二月一八日開催の定例総会においても、海老澤から原告への区分所有権譲渡により、本件専用使用権が消滅することが確認されている。これらの総会には海老澤も出席しており、その決議内容を承知していたものである。バルコニー、専用バルコニー、専用庭は、構造上ないし場所的近接性から、区分所有権者の専用的使用が当初から容認されており、それゆえに区分所有権の移転に随伴するが、駐車場は、その位置・構造からして区分所有者全員の共同利用が原則とされるべきであるから、同列に論じることはできない。

なお、平成八年二月二五日の総会で管理規約が改正され、駐車場利用権については専用使用権から除かれ、これを使用する者は被告との間で利用契約を設定しなければならない旨定められた。

2  本件駐車場の維持管理費はいくらか。

(原告の主張)

原告は、海老澤が被告の求めに応じて支払っていた月額一万円の維持管理費の支払を承継したものである。これを値上げすることは、共用部分の変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすとき(建物の区分所有等に関する法律一七条二項)、又は規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別な影響を及ぼすとき(同法三一条一項)に該当するから、原告の承諾が必要であるところ、そのような承諾の事実はない。また、維持管理費としての実質を超える大幅な値上げは許されない。

(被告の主張)

新たに駐車場使用を希望する者は、使用申込みを行い、抽選の上使用権者が決定されるところ、使用権者は、駐車料金・維持費として月額三万円を支払わなければならない。海老澤の駐車料金・維持費が一万円となったのは、同人がこれまで使用料月額一〇〇円しか払っていなかったので、その点が斟酌されたからである。

第三  争点に対する判断

一  本件専用使用権の帰属について

1  ニチモプレハブが、昭和四五年に本件マンションを分譲するに際し、本件駐車場を含む三区画の駐車場について専用使用権を設定し、個別の区分所有権購入者に譲渡したことは、当事者間に争いがない。

本件駐車場を含む三区画の駐車場は、本件マンションの敷地の一部であるから、区分所有者全員の共有に属するものである。このような共有部分に一定の排他的権利を設定するについては、共有者全員の合意によるべきである。しかし、本件専用使用権は、当初の単独所有者であったニチモプレハブが定めた規約においてその存在が認められ、そのニチモプレハブが後藤に対して設定したものであるから、ニチモプレハブが後藤に対して本件設定契約に従った義務を負うことは明らかである。

被告は、本件専用使用権の設定そのものを問題視するが、右のような状況の下において設定され、後藤が対価を支払って取得した本件専用使用権の効力が直ちに否定されるものではないというべきである。

2 ところで、本件専用使用権は、民法上のいずれの物権にも該当しないものであり、本件駐車場の債権的利用権にすぎないというべきである。しかし、本件専用使用権は、本件規約においてその存在が認められ(本件規約八条)、区分所有者は規約に定める権利義務の一切を継承する旨規定されているから(同規約六条)、ニチモプレハブから分譲によって区分所有権の譲渡を受けた本件マンションの区分所有者は、すべてこのような専用使用権の負担のついた共有部分の存在を認めざるを得ないことになる。

3 他方、債権は、原則として譲渡が可能であり、また、本件規約その他においてその譲渡性を否定する旨の約定はないから、本件専用使用権は、後藤から順次移転して原告に至ったというべきである。本件設定契約六条の規定は、専用使用権を区分所有者以外に譲渡することを禁じているが、これは区分所有者以外の者に専用使用権を譲渡することによって、専用使用権のみが区分所有権と無関係に移転し、区分所有者以外の者が専用使用権を取得して共用部分を利用することを避けようとしたものであると考えられるから、専用使用権を区分所有者に譲渡することを妨げるものではなく、また、その際の区分所有者とは、専用使用権と共に区分所有権を有する者であれば足りるから、専用使用権を譲り受ける際に既に区分所有者である者のみならず、専用使用権の譲り受けと共に区分所有権を取得して区分所有者となった者も含むというべきである。

本件設定契約七条は、区分所有権が譲渡されたとき専用使用権が消滅する旨定めるが、右にみたような同契約六条の趣旨に鑑みれば、専用使用権者が区分所有権のみを第三者に譲渡して、区分所有権なしに専用使用権のみを保有する状態を避けることを意図した規定であり、このような場合に専用使用権が消滅する旨を定めたものと解すべきである。

なお、後藤が本件専用使用権を取得する際に支出した四〇万円が利用料の先払いであるという事実を認めることはできず、これが償還されたことにより本件専用使用権が消滅したとする被告の主張は採用しない。

4  本件専用使用権は、現在においては、原告と本件駐車場の共有者である本件マンションの区分所有者全員との間の債権的権利関係であるから、これらの者の合意によってその権利内容を変更することは可能である。しかし、本件専用使用権の譲渡性を遡って否定することは、原告の有する本件専用使用権を剥奪し、その取得に要した資金を譲渡によって回収することを不可能にするものである。本件規約一〇条は、共用部分の変更により専用使用権に特別の影響を及ぼすおそれがあるときは、専用使用権者の承諾を得なければならない旨規定しており、また、建物の区分所有等に関する法律一七条二項、三一条一項の規定もあわせ考慮すれば、本件専用使用権の譲渡性を遡って否定する内容の合意は、区分所有者全員の合意によるか、専用使用権者の承諾を必要とすると解すべきである。

しかし、本件において右のような合意がされたことを認めるに足りる証拠はない。乙第一、第二及び第四号証は、それぞれ平成四年二月一一日、同年八月九日、平成八年二月の総会の報告であり、乙第五号証は、現在の被告会長山口健三の陳述書であって、平成四年二月一一日の総会において、専用使用権は区分所有権を失った時点で失効することが確認された旨記載されているが、これらによっても、右のような合意がされた事実を認めることができない。また、平成四年二月一一日の総会においては、前記藤江の有していた一号駐車場の専用使用権が問題になったものであるところ、右専用使用権は、藤江が区分所有権を失い、かつ、その専用使用権を譲り受ける者がいなかったためにいわばこれが宙に浮いてしまい、その処理が被告に委ねられたものであるから、本件と同様に解することができない。

なお、被告は、平成八年二月二五日の総会で管理規約を改正したと主張し、その効力の発生日は、同年八月二五日であるとされているが、右改正後の規約によれば駐車場の利用権が専用使用権の対象から除かれており(乙七、一四条、一五条)、右は駐車場の専用使用権を有する区分所有者の権利に特別の影響を及ぼす規約の変更であるというべきところ、右変更に当たり建物の区分所有等に関する法律三一条一項による決議がされたか否かは明らかでないから、右規約を本件に適用することはできない。

二  本件駐車場の維持管理費について

本件駐車場の維持管理費の決定は、共有部分の管理に関する事項である。共有部分の管理は、区分所有者全員が行い(本件規約五条)、その決定は、原則として総会の決議によるべきであって(建物の区分所有等に関する法律一八条一項)、その決議は、出席者の三分の二の同意を得て行うものとされている(本件規約二六条)。

本件駐車場の維持管理費については、平成四年一一月ころ、月額一万円とされていたことが窺われるが(乙三、丙四)、その後、これが右のような決議をもって変更されたことを認めるに足りる証拠はないから、現段階においては月額一万円の支払義務が変更されたということはできない。

(裁判官伊藤敏孝)

別紙物件目録<省略>

別紙駐車場目録<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例